こんな夢を見た。
と書き出せば、夏目漱石の夢十夜だが…
不思議な夢を見た。
と俺なりに書き出そう。
校舎の中に夕日が差し込み、一本、また一本と校舎の中に並ぶ常夜灯の灯が燈る。
俺は螺旋階段を駆け上がりながら、生徒から逃げていた。右手に握られた拳銃には弾はもう無い。
そしてこの階段には隠れる場所が無い。
壁一面の鏡が空間を錯覚させ、俺の感覚を狂わせる。
今もまだ空襲のようなサイレンは鳴り止まない。
なんとか踏み外さずに階段を上り終えると、かすかな香水の臭いが鼻腔をくすぐった。反射的に身をひねると、ズボンに吊っていたキーホルダーが銃弾にはじかれた。
敵だ。
とっさに銃を構えたが、弾は入っていない。
セーラー服を着た茶髪の女子がライフルを構えて俺を狙っていた。
次の銃弾が飛んでくる前に、俺は手に持っていたライターを叩きつけて鏡の留め金をはずすと、そのまま盾に取り空間を歪ませて女子の目を欺いた。鏡に向かって飛んできた銃弾が破片を撒き散らしながら貫通する。その時には俺はもう別の場所へ向けて長い廊下を走り出していた。
廊下の窓から月が見えた。
眩しいぐらいの満月だった。
思わず見蕩れて立ち止まると、そこへまた銃弾が飛んできた。
だが、それは狙いがわずかにはずれ、俺の前髪をかすって窓に突き刺さった。
飛んできた方を見ると、さっきの女子が俺に銃を向けていた。
しばしのにらみ合い。
焦れた女子が引き金を引いた瞬間、俺は目の前の教室に飛び込んだ。
教室にはピアノが一つ置いてあって、その上で猫が演奏をしていた。
その音楽は酷い電子音で、一世代前の携帯電話のような音だった。
そして、その音で全てが真っ白になった。
+end+
2007.06.07 加筆修正→2007.06.12