セリフ100



星と星とを繋いで星座となるように
私とあなた きみとぼくを
繋いで一つになれたらいいのに


「プラネットクラブ ラブストーリー」

これは 星たちの切ない片思いの物語…




     01. 身代わりだってことは知ってたよ。

     02. なんでもいいんだ、傍にいられるなら。

     03. ずっとオレが好きなだけ。

     04. わかっていても時々やり切れなくなる。

     05. こんなに近くにいるのに、どうすることもできない。

















































01. 身代わりだってことは知ってたよ。


 笑ってくれたら、それで幸せ。
 彼の笑顔が私の活性剤。
 悲しい顔なんて見たくないの。
 だって…
 そんな時あなたは必ず彼女のことを思い出してるから・・・ 


 桜葉さくらば 春菜はるな
 つまり私は、脳内に霧がかかって何も考えられない状態で、ベットに寝転んだままぼんやりと天井に描かれている星を数えてる。自分でも何をしてるのかわからないけど…それでも星を数えてる。
 ここは私の彼氏、萌葱もえぎ 一秋かずあきの部屋で、星の壁紙は天体観測好きの彼の趣味だ。
 ずっと星を数えていると、目の前に一秋の顔がぬぉっと割って入ってきて、
「何してるんだ?」
ってぼそぼそ問いかけてきた。
 いつもならそんな言葉すら嬉しくて仕方ないはずなのに、
「うん。」
 その時の私は、そう小さく呟くだけしか出来なかった。
「体…辛かったら言えよ?」
「うん。」
 何度か一秋は私に話しかけてきたけど、うん。としか返さない私に次第に興味をなくしたのか、煙草に火をつけて私の隣に腰掛けて、黙り込んでしまった。
 それでも私は天井から目を放せずに、ただ星を数えて
「うん。」
 消え入りそうな声でもう一度呟いた。


 春。私はオンナになった。







 私が一秋と出合ったのは、高校に入学して直ぐの事。
 初めて出来た友達が、誘ってきたクラブの部長が一秋だったのだ。
 『天体観測部』という比較的地味なクラブの割りに、入部者が多い人気のクラブで、一秋は三年になって部長を任されたばかりだった。
 どちらかというと、物静かで知的なイメージの一秋だったけど、すごく優しくて、面倒見がよくて、その日の内に私は一秋に一目惚れしてた。
 本当は見学だけの予定だったクラブにも入部して、星なんて興味なかったけど…それでも一秋が『どんどん興味もっていってくれれば嬉しい、かな。』なんて本当に嬉しそうに言うもんだから、毎日放課後が待ち遠しくなった。  その頃から私たちは一秋の事を『一秋先輩』と呼んでいた。本当はちゃんと苗字で呼んでいたんだけど、一秋が女の子っぽい苗字だから好きじゃないって照れながら言うもんだから、最初はからかって呼んでたものの、三ヶ月も過ぎないうちに『一秋先輩』が部内で定着した。
 もちろん一秋は部長だし、先輩だから私たちだけに優しいってわけじゃなかったけど、それでも同じ場所で共通の事をしてるってだけで私はすごく満たされてた。
 だけど、一秋ばかり見てると、解りたくないことも解ってしまう時があって…
 一秋と同じ三年の白木しらき 冬美ふみ…通称お嬢先輩。この部の副部長ですごく美人な先輩。髪は腰まであって、でも痛んでない綺麗なストレートで、上品で大人っぽくて…まさにお嬢様って感じの人。
 一秋を見てると、いつもお嬢先輩を目で追っていて…お嬢先輩を見るとき、すごく優しい顔をしてるのが、見てて辛かった。
 それに、周りから見ててもすごくお似合いの二人で、私なんかが入り込む余地は全然なかった。だから、お嬢先輩に優しくされるとすごく悔しくて、つい反抗的な態度取っちゃうのに…それなのにお嬢先輩は怒りもせず、優しい言葉をかけてくれた。格が違いすぎるって思ったら…さらに悔しくなった。
 そんな感じで、嬉しいような辛いような一学期が過ぎていって…夏休みがやってきた。
 休みの間、クラブ活動は顧問の先生の都合で毎週月曜日の週一回に落ち込んだ。
 毎日でも一秋に会いたいのに…
 会えない日は、お嬢先輩と一秋がデートしてたりとかそういう関係になっちゃってるんじゃないかとか、妄想ばかりが膨らんで、息が詰まりそうなぐらい苦しくなった。
 友達にも相談してみたけど…
「じゃぁ、とっとと告白しちゃいない。振られてすっきりしちゃえ。」
なんて笑いながら言われる始末。
 でも、それだけ二人の仲が良く見えるって事で…
 どうしようもなく、行き場のないこの気持ちだけが私の中で空回りし続けてた。

 だけど、八月最後の月曜日。夏休み内最後のクラブ活動を終えて、みんなが帰った後。忘れ物をとりに戻ってきた私は、偶然にもその現場を目撃してしまう。
 教室に入ろうとしたとき、聞こえてきた第一声は一秋のものだった。
「半年、待ったよ。それでも冬美は俺の事好きにならない?」
 聞こえてきた瞬間、まだ一秋が残ってたと思って喜んだけど、その言葉を聴いて私はドアの外に立ち尽くした。
「半年以上がたったけど、どうして諦めてくれないのかな?」
「え?」
「半年たったら諦めるって言うからあげたけど、半年たっても諦めないから言うことにしたの。これ以上は契約違反だよって。」
「…半年、待ったよ。それでも冬美は俺の事好きにならない?」
「えぇ。ちっとも。確かに一秋の事は好きよ?だけどね、それは愛じゃないの。それは半年前からもずぅっと変わらないよ。友情だよ。もしかしたら友情ですらないかもしれない。」
「なんでだよ、何が駄目なんだよ?」
「ダメとかそんなんじゃないのよ。一秋。私はたった一人しか要らないの。大切なものはたった一つだけでいいの。それ以外は所有しようとすら思わない。そしてその一人は決して一秋では無いの。 」
「どうしてそんな事が言える?どうしてっ。」
「解るの。ううん。ずっと知ってた。知らない方が絶対に幸せかもしれないし、きっと一秋と一緒だと楽しいのも。でも私はね、一秋の事絶対好きにはならないから。一秋がどんなに私の事愛してくれても、ずぅっと私の事待っててくれても、絶対それは変わらないのよ。だってね…私はしきを愛してるから。」
「なっ…んだよ…それ。」
 教室の外で立ち尽くしたまま、私は愕然とした頭で一生懸命考えてた。
 あれ、つまり…一秋先輩は…お嬢先輩の事がやっぱり好きで…でもって、半年も待ってて告白してて…でもお嬢先輩は好きじゃなくて…??
 考えがまとまらないうちに、教室の中で机が倒れたような大きな音が響いた。それから、
バシン
 って誰かが叩かれたような音も。
「ばいばい、一秋。」
 お嬢先輩の声が聞こえて、私はあわてて隣の教室に身を隠した。私が隠れて直ぐ、お嬢先輩が一人で出てきて…何事もなかったように通り過ぎてった。シーンと静まり返った空気が、重く後に残った。
 一秋先輩はどうしたんだろ?すごい音がしたけど…?
 お嬢先輩の足跡が聞こえなくなって、私は教室から静かに這い出した。幸いというか…お嬢先輩が扉を閉めずに出ていったので中を覗き見ることが出来た。
 一秋が、教室の真ん中に立って頬を押さえてた。叩かれたんだ…お嬢先輩に。何故か解らないけど、そう確信した。
 教室は一秋の周りの机や椅子だけが倒れていて、大きな音の原因だとすぐにわかった。
 一秋はただお嬢先輩の出て行った先をじっと見ているみたいで…でも、何も見ていないようにも見えた。
 私はどうしようか躊躇ったけど、忘れ物も取らせて貰わないといけないのでとにかく声をかけてみることにした。
「あ…あのっ…」
 声をかけた瞬間、跳ね上がるように機敏な動作で一秋がこっちを見て、それから少し驚いたような…困ったような顔をして
「さくら…ばさん…。もしかして…見てた?」
「えっと…あの…ごめんなさい。」
「……ふられちゃったよ。完全に。」
 弱々しく一秋が言った。
「二年のクラス替えで一緒になったときから、好きだったんだ。で、一回告白したんだけどさ…興味ないって言われちゃって…。でも、これから興味持ってくれればいいって諦めずに部活に誘ったりとかして…。全然嫌がらないから、だんだん好きになってきてくれてるって思ってたのにな…。」
 聞いてるうちに一秋の声はだんだんか細くなっていって、何も言わなくなったと思ったら…声を殺して泣いてた。
 それを見て私はなんだかわからないけど、無性に一秋の事が愛おしくなって…それが抑えられなくなって、気がついたら強引に唇をくっつけてた。キスなんて呼べるようなものじゃなかったし、ムードもなにもなかったけど、そのときの私には「私が先輩を守らないと」って衝動が湧き上がってた。
 驚いた顔をして私を見る先輩に、
「先輩が、好きです。私だったら先輩に悲しい思いはさせません。だから、お嬢先輩の代わりに私を好きになってください。私は先輩だったら、何をされてもいいです。何をしてもいいです。奴隷のように扱ってくれてもいいです。先輩が好きです。先輩が好きです。だから、私と付き合ってください。」
 正面を向いて目をそらさずに言えた。
 先輩を守りたい為に口から勝手に出た言葉だったけど、本心でもあった。
 先輩は力なく笑って言った。
「女の子が奴隷とか言っちゃ駄目だよ。それにね…俺は冬美しか愛せないだ。だから…」
「“ごめん”なんて言わせません。お嬢先輩を好きなままで良いんです。」
「桜葉さん…。」
「お願いです。先輩…」
 言いかけて、私は呆然としている先輩にもう一度口づける。でも、さっきよりは優しく…
「先輩を一番愛してるのは…私だけです。」
 ダメ押しの一言。
 もうどうにでもなれと思ったのか、
「わかった…。」
 一秋は消え入りそうな声で呟いて、私に寂しく笑って見せた。
 そうして、私たちは歪ではあるが付き合い始めた。

 ずっとお嬢先輩を好きなままで良いとは言ったものの、でもそのうち私の事を一番好きになってくれると思って…すこしでも好きになってもらえるように努力した。
 一秋もお嬢先輩の事を忘れようとしているのか、私の事を「好きだよ」と言ってくれたり、たまにだけどデートにも誘ってくれるようになった。
 でも、そうやって私と過ごす時間も、一秋はどこか遠いところをみているような…まだお嬢先輩を視ているような…そんな目をしていることが多かった。“あぁ、先輩は私の事なんてみてくれてないんだ”。そう思うと、いつもすごく悲しくて、切なかった。
 そうしているうちに、また春がやってきて、私は二年に上がった。
 先輩は卒業してすぐに就職し、立派な社会人となっている。

 そして今日。
 就職を期に一人暮らしを始める為、先輩が実家を出るというので、最後に部屋に遊びに行きたいと我侭を言って初めて先輩の実家を訪れた。
 生憎家族の人は留守で彼女的アピールをすることは出来なかったけれど…
 よく考えれば二人っきりなんで、逆に緊張していた。
   先輩の部屋は片付いていて…というより、物が少なくて…。何よりも天体観測に関する道具や星の本なんかが多く並んでいた。
 本当に好きなんだぁ。
 私は少し一秋を理解出来た気がして嬉しくなった。
 だけど…
「春菜に、言っておくことがあるんだ。」
「何?」
「春菜と付き合って、半年以上経つけど…俺はやっぱり春菜を愛せないんだ。」
「えっ…な、なん…で…?」
「今になって、冬美がずっと好きにはならないって言った気持ちがよくわかる。俺は、やっぱりずっと冬美しか愛せないみたいだ…。」
「えっ…でも、私…それでもいい!何で今更そんな事言うの?!」
「ずっと、春が来るまでって思ってたんだ。卒業しても変わらないなら…言おうって。」
「そんな…じゃぁ、でもっ!」
「今度こそ…ごめん。」
 言われた瞬間、頭が真っ白になった。
 一秋が私から離れていく。今もずっとその目がお嬢先輩を視ていることはわかっていたけど…そんな目で私を見ることも無くなってしまう。
 気がついた時、私は先輩をベットの上に押し倒し、強引に唇を奪っていた。
「言いましたよね?“ごめん”なんて言わせませんって。」
 上乗りのまま、一秋の服に手をかけてボタンを一つ一つ外していく。
「経験はありませんが、知識ぐらいはあります。女の子だってヤられっぱなしじゃぁないんですよ?」
 驚いた顔で一秋が私を見てる。わたし・・・を。
「やっと、視てくれたね。私を。一秋、愛してる。世界で一番私だけが一秋を愛してる。だから、抱いて。好きにしていいよ?大好き。愛してる。」
 私はちゃんと笑えてたかな?
 優しく一秋にキスをして、何度も何度もキスをして…
 呪文のように愛してるって繰り返した。
 もしかしたら、私は狂っていたのかもしれない。
 だけど、一秋はそれ以上私を拒絶することはなく…何度目かのキスの時、舌を這わせて私を押し倒し、抱いてくれた。
 一秋も、狂ってしまったのかもしれなかった。
 でも、彼が私の中に入ってきて、そんな事はどうでもよくなった。

 コトが終わった後の事はよく覚えてないけど、何度か話しかけられたような気がする。
 だけど、その時私は何故か悲しくて…泣けなかった。
 嬉しいはずなのに、悲しかった。

 そうして、私はオンナになった。




 花びらが舞い散る桜並木を二人並んで歩く。
 私を見て一秋が「好きだよ」ってささやいて、私はそれに「愛してるっ。」を返す。
 私を抱いてから三ヶ月、一秋は変わった。少しずつ私を視てくれるようになってきたのだ。
 そして私は一人暮らしを始めた一秋の家で、ほぼ同棲のような生活を送っている。  今、すごく幸せです。
 だけど、時々あの目をしている一秋を見かける。遠くにあの美しい先輩を視ている目を。
 そんな時私はこう思う。
 “あぁ、私は一生この目と付き合っていくんだ”って。


 私が彼の事を愛し続ける限り。



+end+
2007.04.24→加筆修正2007.05.15→加筆修正2008.09.05
















































02. なんでもいいんだ、傍にいられるなら。


 衣替えで薄くなった制服の生地。
 透けて見える女子の下着の色。
 男は悲しい生き物だ。
 だから、つい視線がいっちまうのは仕方ない話だろ…?
 嫌なら見せるな。俺は声を大にして言いたい。
 そう言うと君はただ、笑ったね。


 あおい 夏生なつお
 つまりオレは、放課後の体育館でボールを磨きながら校舎の窓に映る人影をただぼんやりと眺めていた。
 クーラーなんて無い体育館には、夏を目前にじめじめとした蒸し暑さが充満している。
 それを少しでも和らげようと、体育館の扉と言う扉、窓という窓を開けて回ったのだが…どうやらあまり効果は無いみたいだ。
 ほとんどの部員が暑さでダレている。
 三年生の進路相談会が長引いているせいで、コートを自由に使えない俺達一、二年生は大人しくボールでも磨くしかする事が無いんだけど…殆どの人間はもちろんこの暑い中真面目になんてやっちゃいない。
 ボールなんて死ぬほど磨いたところで、結局綺麗になっただなんて解るわけねーだろ。
 それが全員の心の中の答え。
 だからって、サボってるのも見つかるとヤバイ。だから皆一つずつボールを手に持って磨いたふりをしながら時間を潰してるんだ。
 進路。
 嫌な言葉だ。
 まだ当分聞きたくないな。
 かくゆうオレもボールを磨きながら「今日はいい天気だな」なんて開いてる窓をから外を眺めてぼんやり出来るというわけだ。
 ぽっかり浮かぶおいしそうな雲。
 それから、一年の時同じクラスだった女の子の姿が目に入った。
 オレはまぁ…本当の事言うと…彼女の事好きだったんだけどね…。
 だけど、彼女は彼女の入ったクラブの先輩が好きになって、告白して、今その先輩と付き合ってる。
 まぁ、その先輩は今はもう卒業してこの学校にはいねぇんだけど。
 それでも別れる事無く仲良くやってるみたいだから…ほっとしたような、残念なような、複雑な気持ちだ。



 夏。オレはようやく全てと向き合った。








 彼女はクラスではどっちかてとムードーメーカー的存在で、明るくてノリが良くて、話しかけやすい感じの女子で、簡単に言うとどこにでもいるイチおんなのこだったんだが…一目ぼれって言うのか?
 入学して、教室に入って、彼女が視界に入って、彼女と目が合って、その瞬間…時間が止まった。
 呼吸も止まった。
 知ってる奴なんて誰もいない、まっさらな人間関係の一番最初に彼女を見つけた。
 それが俺の運命だと思った。

「ねっ、委員会やりなよ。これ決まらないと帰れないんでしょ?」

 初めて声を掛けてくれたのは彼女からだった。
 一番最初のホームルーム…もとい、クラス内係委員決めタイムの、皆がやる気の無さと面倒くささを発揮している最中の嫌重い空間で、明るく華の咲くような笑顔で(と言ってもオレにだけそう見えたのかもしれないが)そう話しかけてくれた。
 彼女の座席は丁度オレの右隣(その一回しか僕は彼女の隣に居れた事は無いんだけど)。彼女にとってはたまたま隣にいたのがオレだっただけで、話し相手は誰でもよかったのかもしれないけど、だとしてもそれが何だってんだ。
 これは入学早々ラッキー以外の何物でもなかった。
「何、放課後何か用事でもあんの?」
「そう言うんじゃないんだけど、今日クラブ見学でしょ?私高校に入学したら何か面白い部活に入って、楽しく高校生ライフを満喫する予定なんだよねー。」
「面白い部活?そんなのあるのか?」
「まだわかんないけど、クラブ見学で色々探してみようと思ってるんだ。だから早く見に行きたかったり。」
「へー。そっか、じゃ、面白い部活見つかったら教えてくれよ。俺も何か良い部無いか探してたんだー。」
 さりげなく会話を合わすオレ。
「いいよ、えっと名前何ていうの?私、桜葉春菜。はるなでいいよ。」
「オレ、葵夏生。一時期は可愛い顔したオレンジの飲料物のせいで“なっちゃん”ってあだ名だったけど、好きに呼んでくれていいぜ。」
「なっちゃん?!なつおのなから?なっちゃん?うわぁ、それかわいすぎー。」
「男にかわいいは厳しいっす。」
「でも良いじゃん。私“なっちゃん”好きだよ?」
 勿論彼女はジュース的な意味で、もしくはあだ名がかわいいという意味で好きだと言ってくれたんだと解ってる。解ってるけど、好きな女の子に好きと言われて悪い気はしない。
 とういうか、有頂天だ。
「そこ二人、高校生になったからってはしゃぐな!」
 有頂天になっていた俺はどうやら周りの目を見失っていたらしい。
 こっそり話していた声がやがて担任に聞きつけられ、初対面に近いというのに出席簿(漫画などによく出てくる黒いA4サイズぐらいの大きさのまさに!と言った感じの物)で頭を軽くはたかれて、危うくなんらかの委員に強制立候補されそうになった。
「あぶなかったね!」
 そう言って笑う彼女。かわいすぎる。
 君となら良いんだろうと何だろうと乗り越えられる気がする。とかそんなセリフ言えるわけでもなく苦笑いで
「初っ端からマジで危なかった。」
 そう言い返すのが精一杯だった。
 もう少し気の利いた事を言える奴だったら、その後の展開ももう少し違ってたんじゃないかとたまに思う。
 その時のオレは、彼女と少しでも仲良くなるのが目標で、その後の事は全くと言っていいほど何も考えてなかったのだから仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。

「じゃ、良い部活あったらメールしたげる。」

 無事委員に推薦させること無くホームルームを乗り切って、終了、解散となった所で、彼女はさよならついでにそう言って携帯電話を取り出して顔の横でかわいく揺らしながら「メルアド交換しよっ。」と事もなげに言った。
 言われたオレはようやく自分が文明開化に取り残されたままでいた自分を後悔した。
 その時のオレはまだ、携帯電話を持っていなかったのだ。
「いまどきっ?!めずらしいね、なっちゃん!」
「そのあだ名、定着なんだ。」
「いや?」
「べつにいいけど、」
 君に呼んでもらえるなら。
「オレ今まで運動部でさ、休みの日も部活って生活だから遊びに行くってのも無かったし…だから高校では運動部以外の事やってみたいんだけどさ、運動部だと急な連絡は家電でよかったし、他はほら90%ぐらい部活だったから、必要なかったんだよなぁ。だからさ―――。」
 携帯電話なんて鬱陶しいだけで、必要無いと思ってた。
「高校に入ったら買ってもらう予定だったんだよな。」
 親に無理やり“高校生になったら、やっぱりいるわよねぇ”何て勝手に決められて、買いに行くのも面倒だからまだパンフレットすら見てない状況だけど。
 それをこんなにも後悔する日が来るとは!!
「なっちゃんって、あだ名といい…面白いね!じゃ、買ったら教えて!」
「おう、一番に言う。」
「別に一番じゃなくてもいいよー。でもよろしく!あ、使い方わからなかったら聞いてね!私携帯のプロだから!」
「携帯のプロ?!さすが現代っ子だ。」
「なっちゃんが未開拓なだけだしー。」
 契約会社は?メーカーは?お勧めは?色々聞きだしてその日のうちに親に頼みこんで携帯を買いに行ったのは懐かしい思い出だ。
 色々ありすぎて解らなかったというのは表向きの理由で、オレは彼女と色違いの携帯電話をゲットすることに成功した。もちろん、お揃いにしたかったからだとは死んでも言えない。
 自称携帯のプロの彼女は、新しい形態が出るとすぐ乗り換えてしまうので、お揃いだった時間は短かったけど、オレはその携帯電話をずっと使い続けて買い変えられずにいる。フォーカスの付いていない使い勝手の悪いカメラでも、一番最初に撮ったのは「試し撮りだから!」ってそれにかこつけて要求した彼女がピースしながら恥ずかしそうに笑ってる写真だったし、一番最初に受信したメールも、彼女からの「購入おめでとう!」メールだったし。一番最初に登録したのは彼女の名前だし。彼女が「携帯開通のお祝いにいいものあげるっ。」と冗談交じりでくれたオレンジの飲料物のストラップ(随分汚れてしまったけど)それもまだある。

 あるのに。

 携帯電話をきっかけに、オレと彼女はクラス内で付き合ってるんじゃないかって噂されるぐらいまでには仲良くなれた。
 冗談を言って、馬鹿騒ぎして、大勢でわいわい言ってクラスの中心ではしゃいで、男女の友情?今はまだそんなでもありか。なんて。
 彼女は約束通り面白いと思った部活を紹介してくれて、一緒に入ろうと言ってくれた。
 興味は全くなかったが、彼女と同じ部に入りたかったから『天体観測部』(別名、星部)に入部した。
 運動部と違って毎日の練習や大会があるわけでもなく、活動日は月曜日と木曜日の2回だけ。実際に星を見るのは、年に1・2回の夏休みとか冬休みとかの長い休みがあるときだけだ。
 今までハードスケジュールだったオレにとって、これで部として成り立ってるのか不安な部活だったけど、余り存在感の無い部活の割に入部希望者が多くて驚いた。
 そんなに星って人気だっけ?
 そう考えていたオレは、初日に彼女の言葉を聞いて入部希望者が多いわけを理解した。

「三年の先輩ってほんと素敵!!なっちゃんも思わない??萌葱先輩はクールだし白木先輩は超美人だし!!憧れちゃうよねー!!」

 つまり一部の見た目の良い先輩達見たさ、一緒に居たさで入部希望者が多かったのだと。

「ね、なっちゃんもそう思うよね?」
 話を振られはしたけど、
「そっか?オレは良く分かんねーけど…」
 誰より君が一番だから。
 なんて言えないし。オレは曖昧に濁して答えた。
 でもその時に気付くべきだった。
 彼女の先輩への憧れは、本当にただの憧れだけだったのかと。

 数日後。
 彼女はオレに
「ねぇ、なっちゃんは好きな人とかいるの?」
 と拷問のような質問を投げかけ、
 答えを聞く前に
「やばいよ、なっちゃん。私一秋先輩の事、好きになっちゃったかも…」
 可愛く告白された。


 どうして名前はオレじゃないんだろう。


 そんな事をぼんやり思った。
 俺の毎日は灰色に変わった。
 一緒にクラブに行っても「ね、なっちゃん。今日の私、ど?かわい?いけてる?大丈夫?」と部室前で聞かれ、「大丈夫大丈夫。春菜はかわいー。」と無理やり笑顔でハイテンションを作った。
 部室に入ればオレの事なんて忘れて「一秋先輩」一直線だ。
 部活帰りはずっと「今日の先輩」話。家に帰ってからもメールで話は一日中エンドレス。
 正直、携帯電話を投げつけたい衝動に何度も駆られた。
 別に毎日一緒に居る訳じゃ無かったし、彼女にも彼女の友達関係があったから、星部の活動が無い時は次第に運動部に顔を出す様になっていった。
 体を動かしている間は嫌な事全部忘れられたし、オレの事を知ってる先輩達がいて、暇なら遊んでけと気軽に誘って下さってありがたかった。
 彼女はそんなオレに対して、特に気にする様子も無く「なっちゃんは動いてる時いきいきするよね!かっこいー」なんて言って遊び試合には応援に来てくれたりもした。
 素直にうれしくて、脈があるんじゃないかと勘違いしかけて、その度にいっそ告ってしまおうかと思った。
 オレの気持ちを知れば、彼女がもう少しオレの事を気にしてくれるんじゃないかという浅ましい考えもあった。
 その時一秋先輩には彼女がいたんだ。だったら、春菜に脈はどうみても無いだろう?
 だけど、ある日の放課後、帰り道。
 無謀なアタックを続ける彼女に俺が「何でそこまで出来るんだ?」ってつい言ってしまった時、

「いつか、振り向いてくれるかもしれないから。」

 彼女は笑ってそう言った。
 淋しそうに、それでいて力強く、愛おしそうに。

 オレには出来ない。
 そこまでして誰かを好きになるなんて。
 
 オレには出来ない。

「しょーがーねーから、応援してやる。オレから見たらおまえ、良い奴だし。先輩もいつか振り向いてくれるって、俺も信じるわ。」
 “応援する”なんて適当な言葉。
 何の足しにもならない、嘘くさい慰めの言葉。
 本当はこの恋が上手くいく何て思ってもないくせに、彼女の笑顔が見たい為だけについた中身の無い言葉。
 
「ありがと。なっちゃんはやさしーな。」

 そんな言葉に君は、なんて残酷なんだろう。
 優しいだなんて、言わないで。 
 
 彼女の事が好きな自分。
 彼女の事を応援したい自分。
 彼女の事を応援したくない自分。
 彼女の事を諦めている自分。
 彼女の事を諦めきれない自分。
 彼女の事を嫌いになりたい自分。
 でも彼女の事が好きでいたい自分。

 本当にオレは彼女の事が…好きなのか?
 男女間の友情なんて、それほど信じちゃいないけど、それでも友達だったら…ただの友達だったら、こんなに悩まなくて済んだのに。

 次第にオレは週にたった2回しかない星部に顔を出さなくなり、代わりに運動部にのめりこむようになっていった。
 オレが星部に顔を出さなくても、クラスは一緒だから顔を合わせては馬鹿みたいにさわいだりする関係は変わらなかった。周りから見れば、付き合ってるんじゃないかと思われるような関係。この関係は、変えたくなかった。だから、今まで通り彼女からの相談も進んで引き受けた。
 彼女と先輩が付き合い始めた時も、その理由も、全部聞いた。
 
「信じるって、口で言うほど簡単じゃないね。待ってるのも。」
「辛いのか。」
「すごく辛いよ。苦しいし、痛いよ。でもね、なっちゃん。私、それ以上に先輩と一緒に居られる事が嬉しいの。」
  
 オレも辛いよ。苦しいし、痛い。
 彼女がそう言って笑う姿が、見ていられなくて。
 そう思いながら、早く別れればいいのにと思ってしまう自分が悔しくて。
 そんなオレを頼りにして相談してくれる彼女が、愛おしくて。

 彼女と先輩が付き合いだしてすぐ、オレは星部をやめた。
 浅はかだけど、けじめをつけようと思って。
 たまたま居合わせたお嬢先輩には

「残念ね。」

 と言われてしまった。

“部をやめて残念”なのか。
“春菜と付き合えなくて残念”なのか。
 その両方か。

 見透かされたような気がして、何も言えなかった。
 オレは部活に精を出すことで、春菜から逃げ続け、だけど好きだという気持ちを捨て切る事が出来ずに…そして一年が過ぎてしまった。

 オレ達は二年なり、クラス替えで別々のクラスになった。
 張り出されたクラス表を見て

「あーあ。残念。なっちゃんとは別々のクラスだね。もう相談とか聞いてもらえないね。」
「別に、オレもうケータイもってるから、いつでもメールとかしてくりゃいいだろ?」
「あはは、なっちゃんがケータイって言うとなんか面白いよね!初めて会ったときは持ってなかったもんね!」
「それは人生の汚点だ。」
「なっちゃんも、メールしてきていいからね。」
「ん?」
「なっちゃんが悩んでる時は、私が相談に乗ってあげるから!」
「えー。だけど、お前に運動の事わかんのか?」
「なんで部活なのよー。ほら、恋話とかあるでしょ?!そーいうのだよっ?!」
「こいばな…ね。」
「ん?どったの?」
「いや、なんでもねー。そんじゃま、そん時はよろしく頼むぜ。」
「まっかせといて!」

“それじゃ、なっちゃん。お世話になりました!”

 そう言って別れたのが今のところ最後の会話。
 それ以来メールも電話もする事が無く、また向こうからの連絡も無かった。

 窓の向こうで笑ってる君。
 あぁ、そうか。ここからちょうど星部の部室が見えるのか。
 一年越しに気付くなんて、なんだか笑える。
 彼女を見るのが苦しくて、逃げてきたってのに…いつも近くにあったなんて。
 ボールを磨きながら、つい目で彼女を追ってしまう。
 と、ふいに彼女と目があったような気がした。
 いや、明らかにこっちに向かって手を振ってる?
 オレにじゃないかもしれないと思いつつ、左手で自分を指して「オレ?」と首を傾げてみると、「うんうん」と大きくうなずくのがわかった。
 自分を指してた手で軽く手を振り返してやると、もう一度オレに手を振って、誰かに呼ばれたのか彼女は窓の向こうへ姿を消した。
 彼女が完全に見えなくなるまで後姿を見送って、オレもボール磨きに視線を戻す。
 ボールを磨きながらも、頬が緩むのがわかる。
 オレの事覚えててくれたんだ。
 
 すげー、嬉しい。

 この時、オレはようやく全てと向き合った。




 好きとか大好きとか付き合いたいとか愛してるとか
 そう言う事をオレは彼女に求めてたんじゃなくて、

 ただ彼女が笑ってそこに居てくれれば
 それだけでよかったんだ。
 
 オレが逃げてきたのは、それを認めてしまうと彼女との関係が消えてしまう様で怖かったからなんだ。
 だけど、離れ離れになっても、無くならない物があった。


 部活もクラスも違うけど、こうして遠くの窓越しにでも手を振りあえる。
 オレの事を覚えてくれてる。
 オレの存在は確かに、消えてない。

 特別じゃなくて、
 当たり前の関係。

 それでいいんだ。




+end+
2009.07.30→加筆修正2009.10.26-27
















































03. ずっとオレが好きなだけ。


 四月。
 クラス替え。
 学年が上がって初めての登校日。
 たまたま俺の隣の席に座った君は、
 誰よりも綺麗だった。・・・ 


 萌葱もえぎ 一秋かずあき
 つまり俺は、現在受験勉強に全ての意識を集中させてある事を脳内から追い出そうとしていた。
 高校三年。
 あれほど時間を割いたクラブ活動は文化祭をもって代替わりし、今では息抜きですら寄り付かない…寄り付けない場所となっている。
 『天体観測部』。その部室の前を通るたび、二つの痛みに心が動かされる。
 悲しみと愛しさだ。
 それはたった一人…美しい君。
 君の為だけに動かされる。

「ばいばい、一秋。」

 何度もフラッシュバックされた光景。
 忘れたくても忘れられない。
 美しい思い出の枠の中に、囚われたままの世界。
 比較的可愛い部類に入る彼女が出来てからも、それはやはり変わらなかった。
 俺を構成するものは、それ以外必要ないのだから。


 秋。俺はヒトリを決めていた。








 日に日に君を見つめている時間が長くなっていく。
 やわらかく笑う君の楽しそうな顔。
 それをずっと見ていたくて…
 授業中どころか、休み時間もずっと君を目で追っている。
 同じクラブの副部長。上品なたたずまいから尊敬と敬愛の意味を込めて後輩からお嬢先輩と呼ばれている彼女、白木しらき 冬美ふみ
 長く綺麗な髪。
 白い肌。
 御伽噺の住人のような、彼女。
 彼女が窓辺にたたずむと、ただの教室の窓が王室の上質な窓へと変わる。
 彼女が話し出すと、皆が息を止める。
 クラブ活動で知り合ってから、三年で同じクラスになるまでは、それでもこの気持ちが何なのか俺には解っていなかった。
 ただ、どうしようもなく狂ってしまいそうで、胸が痛くて…
 “君に恋してる。”
 そう実感したのは初めて同じクラスになって、君が俺の隣の席に座ったその瞬間だった。
「よろしくだね、萌黄君。」
 長い髪をさらりと掻き揚げて、光を背にしてやんわり言った君。
 言葉で語り表すことの出来ない瞬間。 
 囚われた。
 奪われた。
 僕の全てが彼女に。
 自覚すると日増しに抑えきれなくなる思いに耐え切れず、放課後の教室で二人っきりになった時、俺は思い切って彼女に告白した。
 どちらかと言うとその存在故に一人で居ることの多い彼女に対して、星を見るという共通点もあってか誰よりも接する機会があった俺だからこそ、隣に立つのに相応しいのではないかという奢りもあった。
 周囲も俺達の関係はそれであるのに相応しいと囁いていた事は知っていたのだ。
 けれど、
「ごめんね、私、きっと貴方を好きになっても、愛することは絶対ないの。」
 いつもと同じように笑う彼女の言葉は、拒絶の言葉だった。
 “じゃあね。”と話は全てし終わったとばかりに去っていこうとする彼女に納得が行かず、力任せに掴んで振り向かせた。
「他に、好きな奴がいるのか?!」
「多分ね。ううん…これからきっと私はその子の事をどうしようもなく愛してしまうと思うわ。」
「じゃ、まだ好きなわけじゃないんだろ?だったらっ」
「ダメだよ。貴方がどれだけ私を好きになって、どれだけ私を愛してくれて、一生待っていてくれても、きっと私は貴方を愛することはないんだから。」
「俺に時間をくれ。半年でいい。もしそれでも俺の事を好きになってくれなかったら諦めるから。」
「先に言ったよ?。」
「聞いた。」
「案外諦め悪いんだね。」
「それだけ好きなんだ。」
 そう言うと彼女は少し首をかしげてうーんと考えてから、
「じゃぁ、半年あげる。頑張ってね、一秋君。」
 俺の好きな笑顔で笑った。
「あ、ありがとう…白木さん…。」
 そして、今度こそ去っていく彼女を、俺は初めて名前を呼ばれた照れくささで固まったまま見送った。
 次の日から、彼女を振り向かせるためにありとあらゆる事を試した。
 学校の行き帰りも彼女に合わせたり、教室だろうとクラブだろうといつだって彼女の隣に居るようにした。
 デートの度に花束を渡したり、プレゼントやサプライズを用意したり。
 彼女はいつも楽しそうに微笑んでくれて、俺は本当に幸せだった。
 俺から見ても、誰から見ても、彼女は完璧に俺の彼女で、俺の事を好きであるように見えた。
 だけど、半年以上が過ぎ、夏休みが終わり、新学期にもなれた九月最終日の放課後。
 俺は彼女に呼び出された。
「半年以上がたったけど、どうして諦めてくれないのかな?」
 彼女の笑顔はいつも通りなのに、言葉は優しいのに、冷たく言われた様な気がして
「え?」
 間抜けにも俺が聞き返すと、
「半年たったら諦めるって言うからあげたけど、半年たっても諦めないから言うことにしたの。これ以上は契約違反だよって。」
「…半年、待ったよ。それでも冬美は俺の事好きにならない?」
「えぇ。ちっとも。確かに一秋の事は好きよ?だけどね、それは愛じゃないの。それは半年前からもずぅっと変わらないよ。友情だよ。もしかしたら友情ですらないかもしれない。」
「なんでだよ、何が駄目なんだよ?」
「ダメとかそんなんじゃないのよ。一秋。私はたった一人しか要らないの。大切なものはたった一つだけでいいの。それ以外は所有しようとすら思わない。そしてその一人は決して一秋では無いの。 」
「どうしてそんな事が言える?どうしてっ。」
「解るの。ううん。ずっと知ってた。知らない方が絶対に幸せかもしれないし、きっと一秋と一緒だと楽しいのも。でも私はね、一秋の事絶対好きにはならないから。一秋がどんなに私の事愛してくれても、ずぅっと私の事待っててくれても、絶対それは変わらないのよ。だってね…私はしきを愛してるから。」
「なっ…んだよ…それ。」
 しきって誰だよ。俺は彼女がそれでもずっと同じように微笑むから。苛々する気持ちが抑え切れず、彼女の腕を掴むと無理やり引き寄せてキスをした。
 何の抵抗もなかった。あまりにも大人しすぎて彼女の事が心配で腕の力を緩めたら、突き飛ばされて頬をはたかれた。
 あまりに突然だったんで、俺はそのまま机や椅子を巻き込んで倒れこんだ。

 彼女はそれでも怒った顔なんて浮かべずに、俺の好きな笑顔で…優しく言った。


「ばいばい、一秋。」


 そして、何事もなかったように教室から出ていってしまった。




 それ以来彼女の姿を見なくなった。
 噂によると、彼女は学校を辞めたらしい。
 だけど、俺の想いは変わらず彼女へ向いていて、他の女と付き合っても、いつも彼女の笑顔が貼りついて視えた。

 俺は、この先もずっと彼女の事しか愛せない。

 目を閉じれば、楽しかった頃の記憶しか出てこない。
 優しく笑う君の笑顔。言葉。
 そして、最後には、
「ばいばい、一秋。」
 言い残して消えてしまうんだ。
 この想いはきっと、死ぬまで俺を苦しめる。
 だけど、それでもいいんだ。
 思い出とでも一緒に生きていけたら…
 幸せだから。




+end+
2007.05.16→加筆修正2008.09.05