魔術師倶楽部-表紙


 運命を導き出すタロットカードの様に
 運命を弾き出す倶楽部を開こう……

 いつの世も、人のなんと愚かなことか。
 愚者は今日もかく語る。


   青春ライフマジカルストーリー
   「魔術師倶楽部」

 世界は悲鳴を上げている。



 00. 操糸(創始)の愚者

 倶楽部拾壱番

 01. 魔術師達の起源(奇現)

 02. 魔術師達の起源(奇現)2執筆中
















































00. 操糸(創始)の愚者


 与えたれた異名を志と共に受け取りたまえ。
 我等は 既に 仲間だ。

 私は操糸そうしの愚者 名を螺旋らせんと言う。
 つまるところ…まぁ…部長だよ。



 初めからこの人は嫌な笑みを浮かべて笑っていたものだ。
 口の端を吊り上げた…小悪魔的とでも表現すればいいのか…底意地の悪いこの笑い方を。
 だけどこの笑み以外は、きっと、この人には似合わないだろう。

 操糸の愚者。

 貴方は自分を何の価値もない零番だと言うが、僕たち部員の意見を言わせてもらえるなら、貴方は僕たちの弐拾壱番だった。




+続+

補足:零番・弐十壱番は、共にタロットカードの番号である。
















































倶楽部拾壱番


 一 俗名を此処では捨てよ
 一 真名は誰にも教えず 又 知られない事
 一 呼名を此処では名前とせよ


   我等は誇りを持ち、命を賭して生きねばならぬ





+続+

補足:拾壱番とは、タロットカードの番号である。
カードの意味から「規約」「法律」の意。
















































01. 魔術師達の起源(奇現)


 最近の私立高校の内情は切羽詰っている。
 学力レベルの低下と金銭レベルの低下によって、入学する生徒が減ってきているのだ。生徒が減るということは、入ってくるお金も又、減るという事。それは運営においても収入においても赤字を意味することになる。
 元々、貴族の男子の為の高校だった此処“聖ロードベリア学院”も運営が困難という事情から、2000年、女子の受け入れを開始し共学高校となった。
 勿論、男子生徒は極僅かな一部の生徒を除いて大いに喜んだ。
 だが、それでも赤字は解消されなかったようで、翌年の2001年、入試レベルを下げ貴族以外の…口は悪いが下民の中のまだ能力のある者を取り入れる事となった。
 これで喜んだのは下民である。聖ロードベリア学院に入学するということは、上手くいけば玉の輿も夢ではない。一般にとって安くはない学費のはずだが、夢の為ならと入試を受けに来るものが急速に増加した。
 下民の増加に最初は難色を示した貴族組だが、同じ制服を着、同じ会話を交わすことによって次第にその色は薄れていった。
 下民の中に玉の輿の下心があったとしても、世間慣れしていない貴族は決して気付く事はなかったのだ。

 そんなこんなで現在。
 この学園は、なんとか体裁を保ちつつ運営を続けていた。

 最も、これは秘密の事柄で、秘密と言う事は誰もが知っているという事柄だった。



 そんな学校に僕は入学した。
 入学したのは、夏休みの始まる一週間前で、丁度テスト期間が終了した翌日だった。
 こんな妙な時期に入学したのも、僕の父親が原因で…僕の父は旅人で、気分や風が変わると勝手に他所の土地にふらりと出かけてしまうという癖を持っていた。その事は特に何も思わないが、その度に自分の身近に息子を置いておきたがるのをやめて欲しい。
 父は旅立つ直前に、その先の学校を勝手に見つけ、勝手に転入手続きを取得してくるのだ。その鮮やかさと来たら、僕はいつも口をあんぐりと大きく開けてただ呆れるばかりである。まぁ、どうやったのかは知らないが、その度に受ける試験を免除されるのはありがたいけど…。
 そんなわけで、僕はもうすぐ夏休みで、テストが終わってバカンスの相談をしている華やかな教室にいきなり放り込まれたのだった。
 放り込まれた先の教室は、多分何処の教室でも同じだろうが、仲の良いグループなんてものが既に出来上がっていて、とてもじゃないが僕の入る隙間なく、
「あ…の…どうぞよろしく。」
 僕は早々に挨拶を切り上げ、変な奴が入ってきたな的な視線を浴びながら教室の端にある自分の席に着席した。
 丁度その席は窓際の一等席で、僕は友達の居ない寂しさを窓の外を眺めることで無理やり解決させた。
 窓の外に広がる景色は、流石私立と言うべきか、やりすぎだと言うべきか。林の中に小道が広がり、リスが木々の間を駆け巡っていた。
 奥は深すぎて見えないが、林の先に小さく赤い屋根が見える。小屋か何かがあるみたいだ。
 こりゃぁ、気合入れて入んなきゃ帰って来れないぞ。
 僕は授業そっちのけでその林の小道を眺めては、ヘンゼルとグレーテルの童話を思い出していた。
 いや、別にあの赤い屋根がお菓子の家ならいいなぁ…なんて断じて思ってないけどね。
 色々想像を巡らせているうちに、授業は終わっていた。
 クラスメイトは思い思いに散らばって、教室には数人の男子と僕だけになっていた。
 あー、しまった。初日にして授業のノートが真っ白と言う大失態を犯してしまった。友達のいない人間はノートを写させてもらえない。この定義によると、そんな奴は授業中はとりあえず何をするにもノートだけは写しておかなければいけないというのに。
 僕は頭を抱えてその場に、と言っても机に突っ伏した。

「はい。」

 そんな僕の頭を、何かがバシっと軽く小気味いい音を立てて叩いた。
 突っ伏した頭を軽く横に向けると、小柄で人のよさそうな少年…と言っても同じ年なんだろうが、がこれまた人のよさそうな笑顔を浮かべて立っていた。
 その少年の手には一冊のノートが握られている。

「はいっ?」
「はい。」

 僕の疑問に、彼はノートを差し出した。

「ノート、いるでしょ?」
「あ、あぁ。うん。サンキュ。」

 戸惑う僕を他所に、彼は上機嫌で教室を出て行った。後に残された僕は、ただ呆然と彼の出て行った方をただ見るばかりで…

「あ、名前聞くの忘れた。」

 僕の呟きは、静まり返った教室にむなしく響いた。



**********



 林。
 小鳥ちゅんちゅん。
 林。

「こりゃ…すごいな…」
 圧倒的なまでに完成された林を前に、僕は(貴族組以外の)誰でも感じるであろう月並みな感動をした。
 父の勝手とは言え、こんなに凄い学校に入学したのは初めての経験だった。
 こんな学校に入学できるなんて、父は旅人のくせに一体何処でお金を稼いでくるんだろう?考えても栓の無い事だけど、考えてしまう。
 僕はそれなりに世間一般的に普通の部類に入ると思う。
 金銭感覚も庶民レベル。
 だからこそ考えてしまう。
 お金、大丈夫だろうか?
 そして、僕はこの広い校内から帰宅する事が出来るのだろうか……
 正直に告白しよう。
 ノート事件の後、僕は赤い屋根が気になってフラフラと林の入口まで来てしまった。
 フラフラと来てしまった。
 どうやって歩いてきたかわからない。
 僕はまだ、門から職員室までの経路と、職員室から教室までの経路しか案内されていないし記憶していない。
 方向感覚は悪いが、記憶力はそこまで悪くないから、記憶した経路でなら往来は出来る。
 だが、これじゃ、まるで迷子だ。
 正直に告白しよう。
 僕は校内で迷子になっていた。
 赤い屋根はこの林の奥だ。
 僕の後ろには見た事の無い校舎の壁。
 推測するに、僕が座っていた教室の窓がこの壁の三階部分だと推測されるけれど…推測の域を出ない。
 行くも迷子。
 帰るも迷子。
「やっちゃったな…」
 豪華すぎる学校に圧倒されっぱなしで、こんなミスを犯すなんて僕らしくない。
 八方塞りの解決策なし。
 どっちに転んでも時間だけは無駄に掛かるんだろうな…。
 とすれば、他人はどうするだろう?
 校舎の方に歩けば誰か人はいるかもしれないが、初めての場所で知らない人間に声をかけるなんて労力は使いたくないし…ともすれば赤い屋根の好奇心を優先させてしまって、後は適当に歩いて出口を探すか…
 うーん。
 僕は一寸の間軽く悩んで、
「ここは…好奇心優先、かな。」
 ひとり呟いて林に向き直った。
 この学校もいつまでもいられるとは限らないし。出来る事は今しておこう。

 方向が決まったなら、そこへ進むだけだ。




+続きは又何れ+
執筆日不明→加筆修正2011.01.15→加筆修正2011.01.24